
『パリと私の物語』
蛯原 美和子・平澤みどり/著
本の泉社/刊
定価1,800円(税別)
若者に夢と希望与える
花の都パリ、世界中の人々を魅了して止まないパリ。本書は、そのパリを、拠点として活躍する12人の日本人の生活と彼らを支える食を紹介する。建築家の坂茂は「フランス人は、ある建築家の仕事が好きだと思ったら、その人の国籍や実績を問わず、チャンスをくれます」と、日仏経済交流委員会ディレクターの富永典子は「能力があれば、国籍を問わず責任を与えてくれる」 フランスの懐の深さを感じたと言う。パリは実力を認めてくれる街なのである。
そして、誰もがパリでは美しさを語る。ヴァイオリニストの庄司紗矢香は「美しいものへの感受性や美的感覚を、たくさんの人が持っている街」と称す。ウエイターの山下哲也は 「人を感動させるのは美しさ」という信念を実践する。照明デザイナーの石井リーサ明理の語る、オペラ座の幕間にシャンパーニュを片手にバルコニーからタ暮れの光と街と人々を眺めるソワレ(タべ)の過ごし方のなんと美しいことか。豊かに生活を楽しむ方法がたくさん。
食のトピックスでは、パリで暮らす彼らが勧めるとっておきのレストランや食料品店などを紹介。さすがパリと思ったのが、豊富な離乳食をはじめとするべべ(子供)関連のお店の紹介と音の出ないおもちゃを持っていくなど「子供と外食を楽しむコツ」 の情報。出産後すぐ就労可能な環境が整っているフランスらしさを感じた。坂茂や、指揮者の佐渡裕の人々を支援する活動、自分の「好き」を大切にして料理人になった室田万央里、誇り高きテーラー鈴木健次郎、どの人のパリとの物語も、若者に夢と希望を与えるだろう。私もパリに行きたくなった。
(評・群馬県立藤岡中央高等学校司書専門員 太田克子)
(月刊MORGENarchive2017)