
『おもしろ哲学 未華の冒険』
山口 通/著
本の泉社/刊
定価1,200円(税別)
真理に到達するための道しるべに
井上ひさしの有名な言葉が紹介されている。「難しいことをやさしく、やさしいことを深く、深いことを愉快に、愉快なことを真面目に……」
本書は、井上ひさしの名言を念頭において、こころとはなにか、哲学とはなにか、真理とはなにかについて、まるで授業に参加しているかのように引き込まれていく哲学入門書である。
筆者は、長年高校の教員をしながら、養護学校、小学校、中学校、大学、専門学校、少年院、刑務所等で授業や講演を行ってきた。また、教員生活後半では視覚障害者となりながらも、研ぎ澄まされた感覚で哲学を深めて真理を追究していった。
思想家であり科学者でもあったパスカルは、理性こそが万能であるという彼の生きていた時代の考え方に危うさを感じていた。「人間はおごってはならない」と考えたパスカルは、日々考えたことを断片的にメモに残した。それをまとめたものが「パンセ」という出版物である。
このパンセの中に「自分自身を考える人間というものは、自然の中でもっとも不思議な存在である。というのは、自分の身体というものはなにかよくわからない。自分の心はなにかというのはもっとよくわからない。それよりも、もっとわからないのは身体と心がどのように結合しているかということだ。」というものがある。この疑問に答えようとする営みこそが哲学の本質であるといえる。
揺れ動く現代社会を生きる私たちにとって、本書の具体的な題材(死、自由、民主主義、歴史、発展、愛、幸福等)を読み解くことで、真理に到達するための道しるべが得られるだろう。
(評・神奈川県立横浜緑ケ丘高等学校教諭 伊福 龍哉)
(月刊MORGENarchive2016)