
『おじいさんおばあさんの子どもの頃日本は戦争をした』
中村 攻、宮城 喜代美、石澤 憲三/編
而立書房/刊
定価1,000円(税別)
過去を正しく知ることそこから学ぶこと
「戦火を逃れ国境を越える数えきれない難民の姿をニュースは伝えている。七十年前、同じ旅をした多くの日本人がいたことを現在の子どもたちに想像ができるだろうか。
戦後七十年の節目を迎えた今年、作家や著名人の戦争体験記が多く出版されている。実際に戦争体験のある人々が高齢になり、どうやって次の世代へと語り継いでいくのかという危機感もある。本書は三十五年ほど前、ある小学校の教師が出した「家族に戦争の体験を書いてもらう」という課題に応え一般の人が書いた自筆の体験記である。内容は戦時中の暮らしの様子や、戦地で戦った体験、戦後の引き揚げの苫労などを自身の孫や子どもに向けて綴った記録と、メッセージである。
多くの人が「できれば思い出したくない」という苦しい日々。淡々と語られるのは、空襲であまりにも多くの人の死を見たこと、食べるものがなく水のような雑炊ばかりでおなかを空かせていたこと、戦闘機に撃墜され仲間は死に九死に一生を得たことなど。さまざまな環境や職業の人がそれぞれの言葉で書いた真実である。共通しているのは、子どもや孫たちに戦争の本当の姿を知ってほしい、こんなにもつらい戦争を二度と繰り返してはいけないという強い思いである。多発するテロ、空爆。世界では生死の境にいる子どもたちが今どれほどいることだろう。豊かな日本も、戦争は遠い国の出来事だといえる時代ではなくなっているのだ。過去を正しく知ること、そこから学ぶこと。子どもたちに伝えるためにはまず私たち大人がこの記憶を心に刻むべきであろう。そのためにもこの本を手に取って、子どもたちに語るように読んであげたいと思う。
(評・千葉県袖ケ浦市立蔵波中学校読書指導員 松井 恭子)
(月刊MORGENarchive2015)