『茶畑のジャヤ』

中川 なをみ/著

鈴木出版/刊

定価1,620円(税込)

人間にとって大切なのは想像力

 世の中には様々な謬いがある。友達とのけんかや、親子の対立、民族の争い、そして戦争。各々の考えがすれ違い、摩擦が生じる時、私たちにとって必要なものとは何だろうか。それは「想像力」 である、とこの物語は教えてくれる。

 成績が良いことで仲間はずれにされている主人公の少年、周。彼は海外で働く祖父の誘いで、息苦しい日本の学校を飛び出し、スリランカを旅することになった。そこでの体験や出会いから、周は「想像力」を鍛えられ、その大切さを実感していく。中でも、スリランカの内戦について語る語り部、セナの言葉は、周の心に強烈な印象を残した。

 スリランカでは、タミル人とシンハラ人の戦が二十六年間も続いた。終わったのは二〇〇九年、ついこの間のことである。七万人もの人が死んだ内戦の意味を考える周に、セナはきっぱりと言った。「たくさん想像できる人は、人を殺さない。悲しみが想像できるから。」この言葉を、周は自分とまわりの関係に置きかえて考え始める。自分にも、自分を仲間はずれにした相手にも、たくさん想像する力があったなら と。

 豊かな自然の中で、大らかな人々に出会えたスリランカの旅は、周にいろいろな目線で物事を見ることを教えてくれた。人に対しても、自分に都合のいい方向だけでなく、嫌な面をどう理解したり受け入れたりできるかが大事なのだと気づかせてくれた。旅の終わりに周は思う。

「想像力って、もしかしたら人を好きになるためのものかもしれない。」

(評・東京都青梅市立第一中学校教諭 蓑毛 晶)

(月刊MORGENarchives2015)

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