対話的探究への招待――哲学すること、対話すること 第1部 哲学と対話

第2回 スウェーデンで「対話」と出会う

 2011 年 4 月から翌年4月まで、筆者はスウェーデンのボロース(Borås)という町で暮らしました。この町で人びとと交流するなかで、「対話」と出会いました。「対話」という言葉は、それ以前から知っていましたが、「ああ、これが対話なのか!」という鮮烈な経験をすることになりました。この経験は、「対話」の「ほんとうに深い定義」(森有正)を与えてくれました。今回は、スウェーデンでの「対話」との出会いの経験をふり返ります。

◆ 旅立ち

 なぜ渡航先としてスウェーデンを選んだのか。ふたつの理由があったように思います。ひとつには極北の冬の光、オーロラをみるためでした。

 筆者は、アラスカを拠点に活動した写真家の星野道夫(1996年逝去)の作品と生き方に強く惹かれていました。被写体への愛情にあふれる、スケールの大きい写真と透明感のある美しい文章は、極北の自然と人間の暮らしへ筆者を引き入れてくれました。
 なかでもアラスカの冬は圧巻です。星野その人も、アラスカの四季のうち、冬をこよなく愛すると書き残しています。

 マイナス50度まで下がった朝の、キラキラと宝石のように輝く大気の美しさを想像できるだろうか。身も引き締まるような冷気に嗅ぐ、まじり気のない透き通った冬の匂い。心を浄化させてゆくような力を、この季節はもっているのかもしれない。1

 とはいえアラスカの冬は相当に厳しい。寒さも身に堪えますが、なにより陽が射さないのがつらい。星野が生活拠点を構えたフェアバンクスでは、冬至の頃には午前11時過ぎまで日が昇らず、午後2時前には日が沈んでしまいます。北極圏では太陽がまったく姿を見せない日々が続きます。しかし光は闇に輝く。暗い冬にこそ光輝を放ちます。

 満月の夜の、雪の世界の明るさを想像できるだろうか。月明かりのもと人びとは犬ゾリを走らせ、クロスカントリースキーで雪原を駆けることができる。
 そしてもうひとつの冬の光、(略)オーロラは、長く暗い極北の冬に生きる人びとの心をなぐさめ、あたためてくれる。2
 闇に閉ざされた極北の厳寒の空を、変幻自在に色とかたちを変えながら、縦横無尽にオーロラが駆けめぐる。アラスカ先住 民の伝承によればオーロラは、祖霊が中空で踊り、現在の世代を鼓舞する姿だといいます。その光景が胸に焼きついて離れませんでした。

1 星野道夫『長い旅の途上』文春文庫、2002年、77頁。
2 同書、78頁。

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