『日曜日のハローワーク』

小田 豊ニ/著
東京書籍/刊
定価1,512円

人生に本気で向き合うオタッキーな人々

 この本は、きっと君たちの人生の道しるべ、あるいは肥やしになるに違いない。多くの大人は、夢と現実の間で揺れながらも、夢を忘れたり心の奥深くに隠したりしながら日々の生活を送っている。

「日曜日のハローワーク」 のタイトルからは気楽な小遣い稼ぎがH的の仕事紹介をイメージしたが、その内容は全然違っていた。歌うセールスマン、銭湯絵師、金魚チャン 。ピオン、モデラー(ジオラマ作家)……。この本に登場してくる人物はその世界のオタッキーであるとともに、不思議な魅力に溢れている。人生に本気で向き合っているのだ。

 横浜の野毛のバルーン・パフォーマーでありクラウン(道化師)であるしほちゃんは実に魅力的だ。しほちゃんは横浜の上大岡出身で音大でリトミック(心、身体、音感の調和をめざす音楽教育法)を学んだ。音大卒業後は保育園でリトミックを実践したり、本を見て覚えた風船で動物を作ったりして子どもたちに喜ばれた。地元の大道芸のサークルに入り、その後はプロのパフォーマーになる。さらに、しほちゃんはバルーンアートにチャレンジしていく。

 しほちゃんを始めとする彼らは、必ずしもその仕事を初めから目指していたわけではない。人生の分岐点で自分がやりたいことやできることを突き詰めていったら、新たな仕事が誕生したり、生き方に出会えたのだ。仕事はお金を得るための営みではあるが、その仕事を通して道を究める彼らの姿は尊厳に満ちている。彼らは人を喜ばせることに妥協しない職人なのだ。

 あとがきで紹介されたチャールズ・ディードリッヒの言葉が勇気を与えてくれる。「今日という日は、残りの人生の最初の日だ」

(評・神奈川県立横浜緑ケ丘高等学校教諭 伊福龍哉)

(月刊MORGENarchives2015)

関連記事一覧