『ティーンズ・エッジ・ロックンロール』

熊谷 達也/著

実業之日本社/刊

定価1,836

蒼く、熱く、懐かしく

 2010年、宮城県仙河海山を舞台にくり広げられる青春小説。高校生の匠は中学時代の同級生の恭介、宙夢とバンド「ネクスト」を結成し、仙台市でライプを行っていた。活動の展望が見えない恭介と宙夢は匠に解散を切り出す。匠は了承し、新たな活動場所を求め、軽音楽部の扉を叩く。そこで出会った美しき先輩、遥に惹かれていく匠。「軽音楽部で何をしたいのか?」遥から出された匠への問いに出した答えは 。無謀とも言える匠の大きな目標は、街の人たちをつなぎ、少しずつ形になっていく。さまざまな人との関わりの中で、二人は大きく成長していく。

 匠と遥は青春真っ只巾という時代を生きている。それが遠い記憶となってしまった世代の私でも、読み進むにつれ、仙河海市の舞台に引き込まれていく。

 何かに夢中になった蒼く熱き思い、慣れ親しんだ地元の心地良さと刺激の少ない田舎への相反する郷土への思い。そして、恋へのあこがれ……。匠や並を取り巻くすべての人や世界がとても懐かしく、いとおしく、時に胸がきゅっと締め付けられ、入り交じった複雑な思いが次々とさざ波のように訪れる。そして、2011年、3月11 日。「今日と同じ日が明日もやってくるとは限らないことを、僕らは思い知らされた。退屈しながらも平和だった日常が、いともたやすく分断される現実を僕らは目の当たりにした。」この後に続く、短くシンプルな匠の言葉は、柔らかくもストレートに突きささる。

 読後にこれからも続くであろう青春ストーリーを想像し、その世界の余韻に浸ることも楽しみのーつになる。また、毎年生徒と映画を制作している私は、この作品こそ映画化されたら面白いだろうなと想像をふくらせた。

(評・新潟市立潟東中学校教諭 甲田 小知代)

(月刊MORGENarchive2015

関連記事一覧