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綿矢 りささん(小説家)

将来を考え始めたのはいつごろから

 それがなかなかイメージが湧かなかったんです。両親は、小さい頃から習っていたピアノの大成を期待していたけれど、とりあえずそれだけはないかな、と思っていました。作家になるきっかけになった『インストール』は、高校時代に受験勉強の気晴らしでその合間に書き上げた作品です。ですから執筆当初は将来へつながるとは夢にも思っていませんでしたね。最終的には作品に没頭するあまり受験勉強をさぼってしまって、推薦での入学になりましたが、いまだ具体的な目的や目標は定まっていない中での入学でした。

作家として生きていく決断はいつごろ

 出版社の方と相談しながら本を書いていく過程で、なし崩し的にそうなっていったというふうに感じていますね(笑い)。ただ、自分でもとにかく本を出し続けることが作家への道を切り拓くとは強く思っていて。というのは、大学に入学して『蹴りたい背中』で芥川賞を受賞した後に少し気負い過ぎたというか……、なかなか後が続かなかったこともあって、どんどん作品作りに没頭していったんです。夜に仕事をして朝から学校へ、というような毎日の中で、人並みに大学生活の楽しみを得られなかったというのはありましたね。それでも、仲の良い友達が2、3人はできたし、今でも彼女たちはとても大切な友人です。でも、今考えると、 もっと大学生活を楽しんでも良かったなと思います。学生生活と物書きの二重生活は、どうしても健全な生活をすることが難しくて。それに比べると、仲間とのんびり過ごした高校時代は楽しかったですね。

大学ではどのような学びを

 これも物書きとしての気負いからなんですけど、国文学科で改めて文学の歴史を学ぶうちに、”作家である自分はもっと賢げなものも書かなくてはいけない”、みたいな強迫観念に捉われてしまったんです。そのせいで、一時は研究論文のような堅い文章になってしまって筆が進まなくなったりもして。そんなときは、アルバイトやインターネット、読書に没頭してリセットしていました。ちょうど読売読書委員会の書評委員をやらせてもらっていたこともあって、かなりの数の本を読みましたね。

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