『奇跡の中学校 3・11 を生きるエネルギーに変えた生徒と先生の物語』

佐藤 淳一/著
ワニ・プラス/刊
定価972円

「全ては生徒のために」の想いは強く

 「3 ・11 を生きるエネルギーに変えた先生と生徒の物語」、このサプタイトルの中に佐藤校長の伝えたいことの全てが集約されています。本書を涙なしに読み終えることは出来ませんでした。佐藤校長の「全ては生徒のために」 の想いは、教師である私たちに教育原点への回帰を否応なく迫るものでした。人の熱い想いは必ず人に伝わり、人を動かすということを思い知らされました。

 本書は、災害の中から、どうすれば人間は這い上がれるのか? がテーマになっています。絶望のどん底に落とされた人間がむしろそれを生きるエネルギーに変えていく姿は、災害を実感することの出来ない人間にも「生きるとは何か?」という壮大なテーマを突きつけてきます。不幸があったからこそ、そこに「生きるスタートライン」がはっきりと見えてくるのでしょう。それは生きる意味でもあり、エネルギーでもあるということを佐藤校長は伝えてくれます。

 本書はまた、どれだけの人々の助け・支援があって雄勝中学再生が実現できたのかを克明に示しています。どん底の環境から生み出された「奇跡」は、子供たちの純粋な「生きる意欲」が呼び寄せたのでしょう。それは、「たくましく生きよ」という佐藤校長の愛あふれる気持ちが起爆剤であったことは間違いありません。その中心円が多くの人間を巻き込んでいき、大円と発展し、子供たちは「私は一人じゃない」「みんなと手を取り合って生きよう」というエネルギーに変換されていったのでしょう。

 人々が生き生きと前を向いて歩くのは、「相手を思いやれるつながりの意識」 であること。本書は、つながりが希薄な現代社会に、そう間いかけてもいるようです。

(評・東京成徳大学高等学校副校長 野中 修也)

(月刊MORGENarchives2015)

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