連載「対話的探究への招待――哲学すること、対話すること」第1部 哲学と対話

おわりに

 故人との対話は可能です。ただそれは目の前の生者との対話とは異なります。だれを相手とするかによって、対話はありようを変えます。故人との対話には、それ固有のあり方があるのです。
 対話において、わたしたちは相手の人生にふれます。対話において語りだされる言葉は、その人の人生の経験に根ざしたものだからです。対話においてわたしたちは、かけがえのない者として他者と出会うのです。そして故人は、わたしたち生者の地平の彼方に立つ、究極の他者です。それに応じて故人との対話は、対話の困難と醍醐味、奥深さを開披してくれるのです。

竹之内 裕文(たけのうち・ひろぶみ)

静岡大学未来社会デザイン機構副機構長、農学部・創造科学大学院教授。専門分野は哲学・死生学。東北大学大学院文学研究科後期博士課程修了。博士(文学)。東北大学大学院文学研究科助手、静岡大学農学部・創造科学技術大学院准教授を経て、2010年4月より現職。ボロース大学(スウェーデン)健康科学部客員教授(2011-12年)、グラスゴー大学(英国)学際学部客員教授(2022年)、松崎町まちづくりアドバイザー(2022年-現在)。 「対話」と「コンパッション」を柱に、国内外で広く活躍している。死生学カフェ、哲学塾、風待ちカフェ、対話・ファシリテーション塾などを主宰する。団体コンパッション&ダイアローグ(一般社団法人化を予定)代表。『死とともに生きることを学ぶ 死すべきものたちの哲学』(ポラーノ出版)により第14回日本医学哲学・倫理学会賞を、研究発表「『死』は共有可能か? ハイデガーと和辻との対話」により第8回ハイデガー・フォーラム渡邉二郎賞を受賞。

(モルゲンWEB20251014)

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