
『五峰の鷹』
安部龍太郎/著
小学館/刊
定価1,944円
鉄砲伝来に生まれた「近世」
本書は、著者の直木賞受賞第一作で、戦国の大名たちが鎬をけずり混沌とした16世紀、東アジアとの南蛮貿易を通じ覇権へのクライマックスを伺う攻防を描いた歴史小説です。
石見銀山を守る家柄の三島清十郎は剣客としてならし、幕府の兵法指南所を経て肥前・五島列島を拠点に活動する海商・王直に見出されます。後に筑前博多の豪商・神屋寿禎の知遇を得て娘のお夏を妻とし、大海原を技配する海賊の証しである”五峰の鷹”と呼ばれ頭角を現す一方、幼少の頃、小笠原氏の謀略により城主であった父が討たれ、花山院から許された採掘の免状と母まで奪われ、三島家再興と仇討を誓います。
応仁の乱以降、領国支配は下勉上により現地を預かる守護代や国人らが台頭し、キリスト教とその伝播に端を発し、堺の町衆や宣教師らを介し南蛮貿易に活路を求めます。
この頃、明では銀を通貨に税を納めて需要が急増し、日本でも銀を効率的に精錬する「灰吹法」の技術が確立し石見や生野で量産して明へ送る一方、鉄砲の弾薬に使われる硝石・鉛などがもたらされ莫大な富を生みます。これより鉄砲の製作が国内でも加速し、長槍で補う戦法の画期として戦の雌雄が決します。海上では清十郎のジャンク船とポルトガルのフスタ船との緊迫した砲術戦、明の習俗を伝える婚礼の場面も克明に描かれます。
この書は、西洋の叡智である鉄砲の伝来とその普及が近世への社会的転換を促し、アナログながらも精巧な一連の操作を理に適った内なる物証と重ね、戦法の定石に焦点を結ぶシナリオは説得力をもちます。その後の王直と清十郎が”画洋の鷹”となって大航海を俯瞰し、 「天下布武」を睨む信長との鍔ぜりあいを予感させる続篇が待たれます。
(評・八女市役所建設経済部都市計画課美しい景観係長 大島 真一郎)
(月刊MORGENarchives2015)
