
「わたしのマンスリー日記」第31回 加賀遠征―「史上最大の作戦」(The Longest Day) その2 苦しみの中で―再会の歓び
しかし、しかし、しかし、でした。天はそんな私を見捨てませんでした。ちょうど9時ころのことでした。ヘルパーの相葉大さんが介護タクシーの森川さんの奥さんを連れてこられました。実は森川さんの奥さんは看護師の資格をお持ちなのです。
驚いたことに、その奥さんによる簡単な処置によって、瞬時にして私は呼吸不全の苦しみから解放されたのです。これは奇跡と言ってもいい出来事でしたが、その時初めて自分の体に何が起こっていたかが理解できました。それには人口呼吸器の仕組みを説明する必要がありますね。
人口呼吸器の仕組みをひと言で言うと、気管切開した所(気切)にカニューレという器具をはめ込み、そこにチューブを通して人工的に空気を送る仕組みのことです。カニューレの中には「カフ」という風船が組み込まれており、その風船に空気を送ることによって風船を膨らませ、痰や飲食物が肺に流入するのを防ぐという仕組みです。
この風船は常に満タンにしておく必要があるのですが、時間が経つにつれて空気が漏れるのは避けられません。そこで訪看(訪問看護師)さんはその都度カフに空気を送ってカフ圧の調整を図るのです。
今回の事態はカフ圧低下によるものでした。そのことに機転を利かせて対応してくれた相葉さんには感謝しかありません。
山口さんが投稿で「いまはなおったので おはなししよう」とのメモを紹介していますが、「いまはなおったので」というのはそのことを意味しています。ようやく人と対話できる状態に戻れたのです、森川さんの処置によって悪夢から解放され、生き返りました。

谷川 彰英 たにかわ あきひで 1945年長野県松本市生まれ。作家。教育学者。筑波大学名誉教授。柳田国男研究で博士(教育学)の学位を取得。千葉大学助教授を経て筑波大学教授。国立大学の法人化に伴って筑波大学理事・副学長に就任。退職後は自由な地名作家として数多くの地名本を出版。2018年2月体調を崩し翌19年5月難病のALSと診断される。だが難病に負けじと執筆活動を継続。ALS宣告後の著作に『ALSを生きる いつでも夢を追いかけていた』(2020年)『日本列島 地名の謎を解く』(2021年)『夢はつながる できることは必ずある!-ALSに勝つ!』(2022年、以上いずれも東京書籍刊)、『全国水害地名をゆく』(2023年、集英社インターナショナル)がある。
(モルゲンWEB20251109)
