
井乃脇 海さん(俳優)
俳優・井乃脇海さん──、小学三年生で「劇団ひまわり」に入団すると、その後もテレビに映画にと長きに渡り躍進を続ける俊英だが、そのルーツは幼い日の日常の中に突如として生まれたという。横須賀の大自然に全身で溶け込んだ少年はいかにして芸能の道に入り、歩んだのか、「俳優の醍醐味は、役を背負ってはじめてわかる究極の疑似体験──」十代の地図を開いた。
神奈川のお生まれですね
横須賀でも三浦にほど近い自然が多いところで生まれて。子どもの頃は、もう本当に毎日、日が暮れるまで海、山、川と思うままに遊んでいました。金髪に肌を真っ黒に焦がして手のひらにはカブトムシが踊って……、やんちゃでしたね。
『劇団ひまわり』に所属するきっかけは
一人っ子だったこともあって小さい頃から親の愛を一身に浴びて育ったんです。その頃は僕が「これをしたい」と言えば本当になんでも思うままで。それが9歳のある日、飼い犬が病気になって。すると今度は母も体調を崩し、それを境に家の中は嘘のように暗くなってしまったんです。通うバスケットボールクラブのお迎えもなくなって、急速に冷え込む世界に耐えられなった僕は、その寂しさをまき散らすようにはじめて母に暴言をぶつけた。「みんないなくなればいいんだ……」泣きながらしゃくりあげると、母は「ごめんね」と困った顔をして微笑って、それから「なにかしたいことはないの?」と優しく問いかけてくれたんです。そのときはじめて、自分はどうしたいのかを真剣に考えて。その答えが「テレビに出たい!」だった。そうすれば、きっとまた以前のようにちゃんと両親に見てもらえるようになる──。そう言うと母は、「あなたが本当にやりたいならもちろん応援する。でもやるからには半端はダメ。ちゃんと劇団に入りなさい」と言ってくれて。
劇団の思い出は
9歳には決して短くない片道1時間ちょっとの道のりを、月の半分は一人旅ですから不安もありましたね。それに、なんだかんだまだまだ遊びたい盛りでしたから、決して精神的にも楽ではなくて。それでも、レッスンを続けるうちに次第に楽しさを感じるようになってきて。いつしか、歌やバラエティよりも、自分は芝居が好きだな……、とも思うようにもなっていました。
