
『虫から始まる文明論』
奥本大三郎/著
集英社インターナショナル/刊
定価1,620円
知識が増えると共に見える世界も広がる
虫。ずっと当たり前のように存在し続け人に対して不快感や衛生上の害など好ましくない結果を与えているとしか認識していなかった。虫が歴史的経緯を持ち、時代と時代を繋ぐ架け橋であったとは、この本を読む前には想像も及ばなかった。
世界の各地域の虫の色と形は、その土地の風土の影響を受けていて、人間もその影響を受けないはずがない、と作者は語っている。「私たちが目隠しをされたまま艇行機に乗せられて、世界の任意の場所に連れられた時、その地域にいる虫を見れば、どこにいるのか大体のことは分かる。」と例を挙げている。その土地に住む人々が作るもの、あるいは文化の色や形、文芸、美術、宗教、風習などまで、あらゆる人間生活の表現には風土という共通する傾向がある。「虫の世界」と「人の世界」を結ぶ異色の文明論となって多面的に展開することで、人間社会を立体的に捉える素晴らしさを述べている。複数の分野が絡み合っているため、柔軟な発想と思考を新しい感覚として知り、知識が増えると共に見える世界も広がる。作者は最後に虫眼鏡、顕微鏡、望遠鏡という科学的な表現を使ってまとめている。多様な視点からモノを見て、豊かさを育む大切さや微視的な眼を養うことで身近な文明の創造となることを伝えている。
色彩の衝撃的な美しさが印象的なカラー口絵があり、「虫と文明」という突飛なイメージから可能性に溢れる想いへと転換して、読者の興味を引き出し、知らぬ間に深くさせ引き込ませてゆく。これもまた、魅力のーつである。
この本を読む誰もの心が深く動かされるだろう。日常は違う輝きを放つものへと生まれ変わる。明るい希望への出発点として。
(評・北海道旭川藤女子高等学校3年 藤堂 衿菜)
(月刊MORGENarchives2014)
