• 十代の地図帳
  • 各界の著名人の十代の道程にその道に入る心構えやヒントを見る

湊 かなえさん(作家)

 湊かなえさんは言わずと知れたサスペンス小説の大家だ。その作品群の多くがときに現実と虚構の狭間をユラユラと行き来し、突然のクレパスに落ち込んだかと思えば、やはりそこは地続きの現実であるような独特の読み味を持ち、それは「イヤミス(読後感が悪いミステリー)とも呼称されるが、ベストセラーを生む原動力、核はどこからくるのか──、十代の轍を尋ねた。

子供の頃から大の空想家だったとか

 子ども時代を過ごした広島県の尾道は、周囲をぐるりと自然に囲まれていて娯楽らしい娯楽がなかったんです。そんな環境もあってか、小さい頃から空想に耽るのが大好きでしたね。例えば、小学校なんかでよく校庭や体育館で整列して待機する時間てあるじゃないですか。そんなとき、大抵の子たちは少し窮屈そうにするわけだけど、私にとってはむしろ絶好の夢想のタイミングで(笑い)。大人になった今も、新幹線やバスの移動時間は、考え事や空想に耽る楽しい気分転換として有意義に過ごしていますね。「待つ」「並ぶ」といったことが、昔から苦にならなくて。

当時、特にお気に入りだった本は

 小学校にあがった頃から、親の奨めで児童書の『怪盗ルパン』を読み始めたんですが、それにすっかりハマってしまって。ページをめくるたびに現れる古い洋館、中世の宝物……、家の蔵書はシリーズのほんの一部だったけど、学校の図書館には残りの本が揃っていて。もう夢中で読みました。それが読み終わると今度は隣にあった江戸川乱歩作品集に自然と手が伸びて。表紙を開くと、またしても、ピエロや現実離れしたミステリーが待っていて──。本を抱えてドキドキと胸躍らせた当時の記憶は今も鮮やかに脳裏に焼き付いています。

そのころ友人関係は

 周りの子たちもわりと本を読んでいましたね。図書館では、私以外にも『江戸川乱歩シリーズ』を借りている子供は沢山いて、殊更、私がコミュニケーションを切り捨ててまで読書に耽っていた、ということでもなかったんですよ。そんな環境だったので、自分が特別「本好き」という意識はなかったですね。読書の遍歴としては、その後に赤川次郎さんやアガサ・クリスティーなど、謎解きや、ミステリーのときめきに魅了されるものを中心に読み続けて。ただそれ以外にも、中学生になった頃に吉本ばななさんが話題になると、友だちみんなでお金を出し合って単行本を買って回し読みしたりと、その時々のトレンドには常にアンテナを張っていましたね。

関連記事一覧