
『虚空の旅人』
上橋 菜穂子/著
借成社/刊
定価1,620円
思慮深い少年
本書は『精霊の守り人』から始まる「守り人シリーズ」の流れを大きく変える役割を担っている。主人公の若き皇太子チャグムは祝典に参加するため、父帝の代行として隣国を訪れることとなる。そこで、チャグムは隣国の王家を陥れる陰謀に巻き込まれる。チャグムは隣国の王子らとともに難題に立ち向かいながらも、誠実さと義理を重んじ動いていく。すべてに無駄がなくストーリーが展開していく構成になっている。
国の政治を司るなかで、生命をないがしろにする大人たちに対し、常に人の命を一番大切なものとして、信念を貫くチャグムの姿に感動させられる。さらに相手の立場、自分の立場を考慮し、様々な状況を見極めつつも、最善を考え尽力し、事態の解決に向けて自分から行動するチャグムの姿には、大人顔負けの思慮深さがあり、読み手をどんどん話の展開に引き込んでいく。
生死をかけた局面にありながらも、思いやりに満ちた人々を描き、互いを慈しむ心を描く。生命を尊重する姿勢が随所にみられる。壮大な話の展開の妙に引き込まれながら、登場人物とともに生命の尊厳に触れ、自他の心のひだを振り返り、読み手自身の心をも成長させていくことができよう。
本書はシリーズの第4話となるが、単独に本書を読んでもストーリーを理解できるよう配慮されている。この一話だけでも十分深い味わいのある内容で読み応えがある。もちろんシリーズの最初から読み続ければ、さらに内容の幅が広がり感動も深まる。残るシリーズ3話へと自然と誘われる。
初出は厚みのある単行本で、豊富な挿絵も入り重厚感があるが、携行が厳しければ新潮社より文庫本化もされている。
(評・東京 中村中学校・高等学校司書教諭 岡田 富美子)
(月刊MORGENarchives2014)
