『犬と、走る』

本多 有香/著
集英社インターナショナル/刊
定価1,944円

一度だけの人生こんな生き方もある

 箸者の本多有香さんの生き方に驚かされた。そして会ってみたいと強く思った。

 彼女は犬ぞり師として単身、カナダのホワイトホースで二十六頭のアラスカンハスキー犬を剣いながら生活をしている。水道、電気なしのキャビン暮らしで、犬ぞり師としての収人はない。自分の生活費、犬の餌代、レースに出場するための費用を稼ぐためにビルの消掃の仕事をしている。

 有香さんが犬ぞりに出会ったのは大学時代、格安ツアーでカナダにオーロラを見に行った時だ。犬たちが懸命にそりを引く姿に激しく感動したという。これは旅行者にはよくある異文化体験でのときめきだ。多くの場合、現実の生活に戻り、よき思い出となって記憶に残される。しかし彼女は卒業し堅実な職に就いても犬ぞりへの情熱はさめず、遂にカナダへ渡り、無給で犬ぞり師の手伝いをするドッグハンドラーとなる。

 それからがまた無鉄砲である。長距離レースの犬ぞり師になろうと、自転車で気温マイナス10 度の中約1200キロを雪のアラスカまで走る。費用捻出のためオーストラリアへ出稼ぎにいく。カナダで永住権を得るために偽装結婚まで考える。その熱意と行動力には感心させられる。その後、カナダの永住権をとり「世界ータフな犬ぞりレース」 と呼ばれるユーコンクエスト1600 キロを完走した。

 趣味のために生活し、人生を送ろうとしている彼女が、正直うらやましい。だが将来の生活設計というものはそこにはない。この潔さは私には到底理解できないが、一度だけの人生、こんな生き方もありだなと思わされる。同時に、憧憬の念さえ起こる。何とも様々な感情が引き起こされる素敵な一冊だ。

(評・長野県松商学園高等学校図書館司書 武居 恵子)

(月刊MORGENarchives2014)

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