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【教育レポート】「ガザの現実を前に 何が問われているか」

 昨年の末、山梨にある都留文科大学で特別授業「ガザの現実を前に 何が問われているか」が行われた。ゲスト講師に招かれたのは、元京都橘大学教授で現在は明治学院大学国際平和研究所研究員を務める小寺隆幸さん。この日、講義を受ける学生たちは、以前からパレスチナ問題を勉強し、平和をつくるアクションについてグループワークを行なってきたとあって、マイクを握る手にも一層の熱が籠る。「今、自分たちがガザに出来ることは……、」と問いかけるのはこの授業の担当、非常勤講師の西村美智子さん。問いかけを下敷きに授業は幕を開けた。

 冒頭、まずは学生たちの研究発表をガイドラインに、話は進んだ。「胸が苦しくなる……」「自分たちにも責任があるように感じる」「憎しみの連鎖を止めるにはまずは停戦を」「日本や国際社会に出来ることはないのか……」そんな声を取り上げ、一つひとつの意見を通して真摯にガザに向き合っていく。やがて授業はガザの現状に移っていった。

ガザの現況を知る

 広島の原爆の犠牲者は20万人、長崎では10万人……、それに比べると数の上ではガザの犠牲者は少なく感じるかもしれない。しかし一方で、紛争開始からたったの2カ月ですでに1万人が犠牲になっている。そのうちの6千人は幼い子どもたちで、やっぱりこれは異常なことだ。しかも、広島、長崎では被爆後すぐに救援の手が動き出したが、イスラエルが封鎖するガザには誰も救援に入れない。これに追い打ちをかけるように今は深刻な水不足が起きている。汚れた飲み水のせいで伝染病が蔓延し、食料、医療品を含む国連の救援物資も一切届かない状況だ。パレスチナとイスラエル、あるいは周辺国は、壁を一枚隔てて天国と地獄に分かれている。そのたった一枚の壁の向こうに我々は何も出来ない、と嘆息した。

 会場が暗転するとスクリーンが明滅し、テレビのニュースが映し出された。ニュースはガザの現況を伝えている。「ガザでは病院に運ばれた時点でその多くが足や手を失っているが、そうでなくても今の衛生環境の状態では最初の怪我を負った状態からすぐに患部が化膿してしまう。本来ならば切らなくて良い足を切ることで命を繋ぐことができる」そう話す現地の医師は「子どもたちは両親を失い世話をしてくれる人すらいない」と続ける。「医薬品が無いためやむを得ず麻酔なしで帝王切開した妊婦が死んでしまったこともあったそうだ……」映像を見つめる目を曇らせて小寺さんは小さく話した。

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