青い海と空のみちのく八戸から・波動はるかに 第4回 エミシの背中

 移住して丁度6カ月経つが、幾年も過ぎ越した気がする。ここ青森県東部は本州最北端であり、最東端でもある。従って朝は早い。夏至のころは早朝3時すぎから白み始め、夜は8時過ぎまで明るみが残るので真に暗いのは数時間に過ぎない。大仰だが関東から移り住んだものにとっては白夜を想起させる。深夜3時というと、丁度、私は加齢事情でかなりの頻度で起き上がる時刻だ。床に戻ってきても直ぐには寝付けない。遮光カーテンを取り付けていない窓は次第に明るさを増し、私にはアイマスクが必須だ。すると、瞼の裏ならぬアイマスクの内側に様々な風景を映しこむことになる。その一つに、自身で「エミシの背中」と名付けた幻影風景がある。ご存じのようにエミシとは蝦夷、毛人等の字が当てられ日本列島の北海道・関東以北に住んでいた人たちのことである。

 私の車は今、シニア野球の試合にために八戸市より高速道路を青森市に向かって走っている。運転は仲間に任せ、私は後部座席で窓外に移ろう風景をぼおっーと眺めている。途中、当然ではあるがいくつもの街、集落、田畑を臨むが、左右から道路を覆うような樹々のトンネル、また森の緑が燎原の如く拡がる区域も多い。それらを注視していると、原始の樹海を思わせるような自然林は私を遠く古代の世界に誘う。目を閉じると次第に集落、田畑が消えて、車が疾走している道路までも消え、頭蓋の隅々までを風のそよぐ緑野だったり、樹海が占めていく。
私はいつの間にか樹林の中に降り立っている。

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