『幸せは日々の中に』

葉 祥明/著
日本標準/刊
定価1,500円(税別)

初めはフンワリ、やがて力強く確かなメッセージ

〈幸せは、/なんでもないこの日常。/幸せは、/変わりないこの日々。〉

 この言葉を実感するのは、毎日繰り返されるあたりまえの生活の中で、ふと目に留まったものやひそかな楽しみ、あるいはやすらぎを見つけた瞬間だろう。

 本書は、「かもめーる」のイラストでお馴染みの画家、葉祥明氏の詩集である。詩を鑑賞するとき私はいつも、作者の呼吸に合わせるのが一番の方法と思い、声に出して読むことにしている。本篇も、葉氏の絵と同じように初めはフンワリとしたことばがそよ風のように心地よく響き、やがて遠くの方から力強く確かなメッセージが迫ってくる。

〈アフリ力の大草原で/チーターがガゼルを追っている。(中略)/生きんがためにガゼルを追い、/ガゼルもまた生きんがために命賭けで逃げる。/大自然の中のいのちの営みを、 息をひそめて見つめるあなたは何者だろう?〉

「僕の絵は、絵を見る人が主人公」との言葉を思い出し、北鎌倉の葉祥明美術館を訪ねてみた。 一九四六年七月七日に熊本県で誕生し、七人兄弟の六番目として育った。実家はレストランで、人の多い賑やかな環境の中、常に絵を描いていた彼の七千点の作品は、表現のはじめに「詩」があり、そこから絵のイメージが広がるものなのだという。

〈「詩」は僕にとって、何よりも大切なもの。日々の生活の中で「詩」を感じられること。それは人生を自分らしく生きる、ということだ。〉

 震災以降、崇高さや永遠性を感じる作品が増えたように思う。一瞬、本篇91ページの自転車のイラストが、ある一文字の漢字に見え、急いでそのページの詩を読み返してみたのだった。

(評・千葉県立流山高等学校司書 大場 弘美)

(月刊MORGENarchive2016)


関連記事一覧