
『夜中の電話 父・井上ひさし最後の言葉』
井上 麻矢/著
集英社インターナショナル/刊
定価1,200円(税別)
娘へのメッセージは次世代へのメッセージ
あなたは、(父)親から伝えられた大切なことはありますか? 本書は、家業を継ぐことが少なくなった現在、継ぐことの苦悩や葛藤を日々の生活を通して描いています。
日常意識しない命のリレーは家族が増えると繋がるかもしれませんが、想いや習慣を引き継ぐことは難しいと思います。その想いを、病床の父ひさしさんより、娘・麻矢さんへ送り届けた77のメッセージを紹介した著書です。死にゆくものが遺した言葉は、その肉体が無くなって語りかけてくれます。麻矢さんが家業の劇団こまつ座を引き継ぐにあたり、夜中に電話で語ってくれた父からの魂のメッセージは、「生きるとは」「仕事とは」との間いを開放へ導いてくれるメッセージで、きっとあなたの問いの指針になってくれるでしょう。「父は人間のお手本だったよ。よいところも悪いところもすべて揃っている、人間らしい人だった。そんな父に触れた真剣勝負の電話。私に語ってくれた本音の言葉はいまだに私の中に生きている。」と言う麻矢さんの、父への畏敬の念が綴られています。彼女の苦悩や葛藤を使命感に奮い立たせたのは、父が遺した言葉だったのでしょう。そんな劇作家の井上ひさしさんの言葉には力を感じます。「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」シンプルですが、奥が深いメッセージです。
今年は申年。形あるものはいつか散り、人もいつかは去ります。今年こそ、麻矢さんのように父親と会話を楽しんではいかがですか? 身近な言葉を幸せの魔法にかえて。
(評・沖縄県石垣市立石垣中学校教諭 嵩西 淳)
(月刊MORGENarchive2015)