沼口麻子さん(シャークジャーナリスト)

 沼口麻子さんは『シャークジャーナリスト』である。耳慣れないサメ専門のジャーナリズムは、一途にサメを想う気持ちの結晶だ。凶暴の化身のレッテルを貼られたサメ――それは専門家と一般人の間にある大河が生む誤解に他ならない。サメのため、社会のため、そして自分のために正確な情報を伝えたい。情熱の源泉に迫った。

 ご出身は東京だそうですね。そう訊ねると、そうです。東京の練馬区です。答えた後、ひと呼吸おき、生まれは岩手ですが、2歳か3歳の頃越してきてそれからずっと、と付け加えた。花の都は、沼口さんの原風景だ。幼い頃、あまり友達と遊ばないおとなしい少女は、日がな一日生き物図鑑と向かい合う。家の中には、縁日から持ち帰ったメダカや亀、金魚、ザリガニ、それに草っ原で捕まえた昆虫たちの入る水槽が、所狭しと並んでいる。どうしてかは分からない、なぜかはっきりと生き物が好きだった。

 住まいが賃貸ということもあり、ほ乳類など大型の生き物は飼えなかったが、小学校に上がり学年が進んでも熱は醒めない。中学生の時分には街でピラニアが売っているのを見かけると、堪らず親にせがみ買ってもらった。大きめの水槽を用意し生態を調べ、丁寧に飼育した。一方、学校では相変わらずおとなしい。友達とのコミュニケーションもそこそこに、動物が好きだから動物のカメラマンになろうか、と自分と生き物を結びつけ将来を考えることもある。

 ある日、弟の友達の家族がジンバブエに転勤したという話を耳にした。ジンバブエは南アフリカの北に位置するアフリカ内陸の国。自然に恵まれ、象やキリンなど野生動物も多く生息する。生き物に会える! そう思うと遠慮も何も吹っ飛んでしまう。行きたい。そう両親に訴えると、一人分の航空チケットを用意してくれた。夏休み、16歳の少女は一人アフリカ行きの旅客機に乗り込んだ。ロンドン・ヒースロー空港を経由しジンバブエの首都ハラーレへ。そこから友人の待つブラワヨに乗り換える。使える英語は「ハロー」一語。それでも乗ってしまえばなんとか辿り着く事ができた。よく一人で行かせてくれましたね、と驚くと、友達の少ない私を両親は心配していたようで、できるだけやりたい事をやらせようと考えてくれて、と微笑んだ。

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