『縁もたけなわ ぼくが編集者人生で出会った愉快な人たち』

松田 哲夫/著
小学館/刊
定価1,944円

本に恋した人の魅力あふれる一冊

 本書は、編集者として歩んできた著者が、本作りの過程で出会った、個性豊かな五十六人の人々の話である。

 著者の編集人生の入ロは、型破りな漫画雑誌『ガロ』 に始まる。その後、筑摩書房の編集者になり、四百冊もの本を作り出した。

 『ひょっこりひょうたん島』の大ファンであった著者が、井上ひさし氏に小説を依頼し、原稿を貰うくだりは圧巻だ。構想を語るまでは極楽だが、原稿となると大変さが並大抵ではない。井上書体をまねたり、ひらめいた 「原稿パロディ」 から、「版元の苛立ち」(江戸のタ立のもじり)などタイトルをつけ、なんと十四通もの手紙を送り、大長編『古里吉里人』が誕生する。

 筑摩書房は「文学全集」 の老舗だ。文学全集の時代が終わり、文庫でも古典的作品が次々に姿を消していた頃、小学校時代の図画工作の先生、安野光雅氏に再会する。安野氏との話から「今読んで面自い」を基準に、文学という概念を最大限に広く取り入れた文学全集づくりの構想が生まれる。これまでとは装いを新たにした『ちくま文学の森』は、営業の心配をよそに大ヒットシリーズとなり、『ちくま哲学の森』 へと続いていく。

 桁外れの読書家ぞろいの編集会議は、その場に居合わせたように楽しい。読書は、そのこと自体楽しいが、自分が手にした本が作り山される過程を垣間見るのは、ワクワクする気持ちだ。T B S『王様のブランチ』に出演していた著者は、本を媒介に、共演者の意外な面を教えてくれる。紹介した本の著者との新たな本作りの話も興味深い。

 本に恋した著者の魅力あふれる一冊だ。

(評・前駒込学園図書館司書 土肥 英子)

(月刊MORGENarchives2014)

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