春風亭 一之輔さん(落語家)
ある日の池袋演芸場。満員御礼の熱気溢れる会場に出囃子『さつまさ』が流れると、客のボルテージは最高潮になる。落語家・春風亭一之輔さん。多彩な持ちネタに変幻自在の語り口が人気の時代の寵児だ。古典落語に絶妙のアレンジを加える独特のセンスは他の追随を許さない。見るものを惹き付ける天賦の才、その十代を訊いた。
幼いころの風景は
千葉の野田の生まれなんですが、ひとことで言うなら「ベッドタウン」かな。とはいえ、それほど人口は密集してもいない……、どこにでもあるような普通の田舎街でしたね。小さいころはどちらかと言えば人見知りの、大人しい子どもでした。いつも、年の離れた3人の姉にくっついてまわってね。
小学校時代の思い出は
みんながやっているから、と、少年野球に入ってみたり、姉も通っているし、と、そろばんや書道を習ったり……。あとはもう、本当にそのへんの原っぱでサッカーをする。あるいは、空き地に、『ビックリマンシール』を持ち寄り見せ合う。近所の子どもたちが自然に集まってはじまるような、どこにでもある光景があのころの日常だった。
当時、夢中だったことは
特にこれといってなかったけれど、テレビはよく見ていましたね。うちはとにかく、一日中ずっとテレビがついているような感じの家だった。歌番組、お笑い番組、バラエティー、ニュース……学校から帰ると、すぐに姉の傍に座り込み、一心にブラウン管を見つめた。でもいま思うと、一番下の姉でも7つ違いでしたから、大人が見るものを一緒に見ていたわけです。
話すのが好きなったのは
小学校4年生ぐらいのときに、朝の会で「1分間スピーチ」のようなものがあった。押し出されるように引っ張りだされ、苦手な人前に立たされる。嫌だな、と思った。ところが、意を決して適当に考えた創作話を披露すると、学友たちは顔を見合わせ、楽しげに口角をあげたんです。そのときはじめて、人前で話す楽しさを知った。