谷川 俊太郎さん(詩人)
谷川俊太郎さんは誰もが知る詩壇の巨人だ。その平易でありながら印象深いフレーズと情感あふれる擬音、擬態語に触れると、誰もが様々の情感に包み込まれるような感覚を持つことだろう。また、活躍の場も実に多彩で、詩のほかにもエッセイから翻訳、脚本までマルチな活動を続けている。歩みを止めない創造の心――、その原点を訊いた。
幼い頃はどのような環境でお育ちに
父が哲学者で大学教授を務めていたこともあり、とにかく家の中は本だらけでした。いつも気難しそうに離れの書斎で仕事をしていた父は、食卓を一緒に囲むことも少なかった。そういう意味では家庭的な人ではなかったですね。僕は子どもの頃から物書きとして生きる現在まで、いつも周囲に在り続ける「本」に対して、好きと嫌いの同居したアンビバレントな感情を抱いています。時々本当に本にうんざりすることがあるんですよ(笑い)。
その当時、将来に描く夢はあったのでしょうか
なにしろ戦争中でしたからね。それこそ例えば「少年航空兵」といった具合で、周囲の大人たちに決められる将来像に否応なしに合わせる子ども時代でしたね。
子どもの頃からやはり物を書くのは得意だったのでしょうか
それが最初は全然上手ではなかったんですよ。中学、高校時代こそ、作文では一定の評価を受けましたが、当時はもう字を書くことからして苦手でね。母に良く直されていました。下手だ、下手だって言われて。手書きの文字には今でもコンプレックスがありますね。そんな調子だからワープロが登場したときは大喜びでした。もうこれで書かなくてすむってね(笑い)。