『ポストコロナ期を生きるきみたちへ』

内田 樹/著
晶文社/刊
本体1,600円(税込)

未来への伝言

 本書は、中高生を想定読者として編者の内田樹さんが呼びかけ、年代を超えた一九人の様々な分野の識者が応えてできたものである。

 けれども、類書の「上から目線」や「説教口調」とは異なっている。冒頭から、「この危機を作り出したのは大人たちだから、私自身を含め、大人たちはまず謝らなければならない」と謙虚に語る。また、多くの寄稿者が若い人たちに自分で考えてほしいと訴えている。なぜなら、これから大人たちの経験知が適用できない世界を生きることになるからという。まさに現代のパンデミック(感染症大流行)では想定外が続いている。

 ある人は新興感染症の原因として文明化をあげる。森や林など未開拓の所が拓かれ、接触がなかった動物から新たな病原体が人に感染する。もう一つの要因は文明化に伴う交通の発達によって世界に広まっていると指摘する。

 また、別の人は、コロナ禍によって日本の性が浮かび上がったという。一つはヒトやモノが国境を超え自由に行き来して経済を発展させるグローバル資本主義が挫折した。生活必需品が手に入らなくなったことで明らかである。二つ目は、経済合理性を最優先した医療システムはパンデミックでは通用しない。三つ目は、日本の政策決定システムが硬直化していて変化する事態に全く対応できていない。根底には教育システムの硬直化があり、正解が決まっている問題を早く解くのは得意だが、試行錯誤しながら解いていくことに慣れていないからであるという。豊かな見識による丁寧な説明で中高生のみならず年長者にとっても視野の広がる書である。

(評・明治学院学院長 小暮 修也)

(月刊MORGENarchive2021)

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