『お父さんの手紙』

イレーネ・ディーシェ/著 赤坂 桃子/訳

新教出版社/刊

定価1080円

愛が生きていく糧となって

 ユダヤ人を決して信じてはいけない、とペーター少年は学校で教わった。彼はなぜかわからなかった。もちろん私にはもっとわからない。きっと、時代のせいでもあるのだろう。

 ペーターは、ヒトラーがドイツで権力を握りユダヤの人々を迫害していた時代に生きていた。戦争がいつ始まるかわからない時代に、学校の言葉はものすごく重たく感じられただろう。私はそんなことを一度も教わったことはないし、人を信じないことも考えられない。人を信じることは自分の信頼にも関わってくるからだ。だがこの時代のことを調べてみたら、そんな簡単な話ではないことがわかった。ユダヤ人であるというだけで、彼らを助けようとするだけで、処刑されてしまう。それなのに、ペーターの父、ラズロは外交官という立場でありながら、ユダヤ人を助けようとした。

 そんな不安定な世界にも、今と変わらないものがあった。「愛」である。愛にはたくさんの種類がある。中でも最も大きいのは「家族愛」だと思う。目に見えなくても、いつもすぐ目の前にあるもの。ペーターは、たくさんの愛を父や祖父からもらった。無鉄砲な父からは、溢れ落ちてしまうほどたくさんのくすぐったい愛を。規律正しい祖父からは、厳格で不器用な愛を。それぞれの愛が彼らの生きていく糧となっていた。

 ペーターの生きた時代と違い、平和で不自由の無い現代は、きっと本当にわかっていなくてはいけないものを隠してしまっている。目に見えないものを見つけるのは難しい。しかし、もし見つけることが出来たら、今以上に人をいとおしいと思えるのかもしれない。

(旭川藤女子高等学校一年 宮嵜 琴音)

(月刊MORGENarchives2014)

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