『読めなくても、書けなくても、勉強したい ディスレクシアのオレなりの読み書き』
井上 智・賞子/著
ぶどう社/刊
定価1,800円(税別)
困難に直面している子どもたちのメッセージ
ディスレクンアとは、知的に問題はないが読み書さや記憶に困難を示すLD(学習障害)の状態を指します。トム・クルーズがディスレクシアであることを公表したこと で日本でも知られるようになりましたが、未だ正しい認識には程遠いことをこの本が教えてくれます。
著者は四十三歳の時、偶然手にした一冊の本から自身がディスレクシアだったことを知り衝撃を受けます。人一倍活発で頭の回転も速い子どもだった彼は読み書きができないことで怠け者のレッテルを貼られ辛い学校生活を過ごしました。社会に出てからは転々と職を変えながら、周囲に知られるのを恐れ自分なりの方法で必死に読み書きに取り組んできたのです。それはたったひとりの壮絶な戦いでした。
そして良き理解者である伴侶のサポートを得て、これまでの体験や封印してきた「思い」を書くことを実現させました。それは絶望の連続だった過去の自分を肯定することであり、現在読み書きの困難に直面している子どもたちと周囲の大人へのメッセージでもあるのです。「もし、自分がディスレクシアだと知っていたら、もし、自分に教育の機会が保障されていたら」もっと勉強したかったという切実な思いが伝わってきます。読み書きの困難以外はコミュニケーション力もあり芸術的な才能に恵まれた人も多く、見過ごされてしまいがちなディスレクシア。育てにくさから虐待にあったり、学校で孤立することも多いといわれます。
「オレのような思いをもう誰にもさせたくない」著者の心からの叫びです。
(評・袖ケ浦市立昭和中学校読書指導員 松井 恭子)
(月刊MORGENarchive2017)