『19 歳の小学生 学校へ行けてよかった』

久郷 ポンナレット、久郷 真輝/著
メディアイランド/刊
定価2,000円(税別)

内戦の体験を語り平和の尊さを訴える

 ベトナム職争の影響を受けた政変によりカンボジアで内戦が起きたのは、著者のポンナレットさん十歳の時の事です。両親と兄弟に囲まれて恵まれた生活をしていたポンナレットさんは、家族と離れ離れになり、食べ物もないままの厳しい集団労働や差別や迫害を受けるというこの世の地獄を体験しながら、精一杯生き抜きました。

 日本に留学していた姉の働きで来日し、小学校に通えるようになったのは十六歳の時。十九歳で小学校を卒業します。小学校の三年間で日本語の読み書きができるようになった彼女は、読み書きさえできれば、自由に夢を見て、無限の可能性にチャレンジできることを実感します。またさまざまな経験を文字に書きつづり、本にしたことで自分自身と向き合うこと ができるようになったと学ぷことの大切さを訴えます。もう一人の著者である娘の真輝さんは、母と共にカンボジアへ行き「母と家族が迫害を受けた村」で、内戦で亡くなった七千人の方々の合同慰霊式を行った体験を語り平和の尊さを訴えます。合同慰霊式には四十年前に加害者だった人たちも全員参加してくれたそうです。内戦の悲惨さは、加害者と被害者が同じ場所でまた共に生きていかなくてはならないことでしょう。式を通して真輝さんは、母であるポンナレットさんがこの戦争について、憎むということはせず「赦す」という選択をしたことを尊敬していると語ります。

 現在ポンナレットさんは、戦争体験の当事者として、各地で講演を行っています。 「世界平和と人々の幸せを祈る」という意味がこめられたカンボジア舞踊を娘の真輝さんも母と共に踊りながら、母の活動を支えています。真輝さんが語る「今ある生活が決して当たり前ではない」ことを多くの人に考えてほしいと願う本です。

(評・干葉県袖ケ浦市立昭和小学校読書指導員 和田 幸子)

(月刊MORGENarchive2016)

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