• 十代の地図帳
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安部 龍太郎さん(小説家)

 安部龍太郎さんは言わずと知れた歴史小説の大家だ。90年にデビューするや次々と話題作を積み重ね人気作家に。13年には日本の中世を駆け抜けた絵師・長谷川等伯の生涯を描いた『等伯』で直木賞を受賞した。一見して順風満帆な作家キャリア、しかし、そこに至る道はやはり平たんではなかった。理系から図書館司書へ――流転する十代の地図を開いた。

ご出身は福岡だとか、小さい頃はやはり本がお好きだった

 僕が生まれた福岡県の八女市は熊本県境に近い山間部にあり、豊かな自然に囲まれて少年時代をすごしました。無邪気に過ごした少年の頃、通り一遍の本は読んでいましたが、とくに文学少年だったというほどではなかったですね。

中学・高校の進路では理系を

 中学校からは中・高一貫5年制の国立久留米工業高等学校機械科に入学しました。エンジニアの育成を目的とした学校でしたから、当然カリキュラムも理工系のものばかりでしたね。でも中学生くらいの年頃にはまだ自分の適性や方向性は大抵見えないものでね。理系浸けの日々の中で「ああ、これは自分に向いてないな」と気付き始めたんです。

文学を目指されたきっかけは

 中学も3年に進級したころ、とにかくいろんな行き詰まりがいっぺんにやってきました。打ち込んできたラグビー部を鎖骨の骨折で引退しなくてはならなくなり、同時期に失恋も経験したんです。折しも世間では浅間山荘事件、三菱重工爆破事件など全共闘運動に終焉が迫っていました。福岡にいた僕は左翼の思想家たちと直接の接点はありませんでしたが、時代の空気を感じ、少なからず共感の念を抱いていたこともあり、先の二つの挫折も重なってこの先いかに生きるべきかを真剣に考えたんですね。このまま、4年生、5年生と進級して企業に就職する、果たしてそれでいいのだろうか、今一旦立ち止まってしっかりと考える必要があるんじゃないか、と。考えた末、1年休学して考える時間をとることになったんですね。

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