『仏典童話集 羽の水』
野呂 昶/文 畠中 光享/絵
本願寺出版社/刊
本体2,800円(税別)
子どもから大人までそれぞれの視野を広げて
表紙に描かれている若き僧侶の強い眼差しに、ドキッとさせられる。読み手の心を見透かしているような、問いかけてくるような強い眼光だ。表紙とさし絵を描いた畠中光享氏による「少年アーナンダ」であると記されている。
本書は、古代インドで語りつがれてきた物語のうちから、お釈迦様が弟子や街の人びとに向かって、人間の真の幸せや生き方について語られた話をもとにしてできた仏典童話集である。
タイトルの「羽の水」を始め、二十の物語が子どもにも親しみやすいようにやさしい語り口とさし絵で描かれている。自分で読むのはもちろんだが、読み語りしてみるのもよいだろう。
あとがきで著者の野呂昶氏は、お釈迦様が人びとに強くすすめられたのは、慈悲の心と知慧のはたらきであると述べている。
奇しくも新型コロナウィルスの大流行により世界中が混乱し、多くの人々の日常生活が奪われている今こそ、自分の幸せより他人の幸せを大切にする思想や、疑心や暗愚に惑わされず、正しく知慧を働かせよと、手渡させた本のような気がしてくる。
読み手がこの本を手にした時々の気持ちで、印象に残るお話が変わってくるのではないかと思われる。先賢の言葉に耳を傾け熟慮してみたい。
また二十の物語には出典が記されている。興味を持ったら出典にあたるのもよいだろう。お釈迦さまや仏教について調べてみるのもよいだろう。本書を起点にして、子どもから大人までそれぞれの視野を広げてみる事を提案したい本でもある。
(評・袖ケ浦市立昭和小学校 学校司書 和田 幸子)
(月刊MORGENarchives2020)