『カラス学のすすめ』
杉田 昭栄/著
緑書房/刊
本体1,800円(税別)
記憶力や情報伝達力も備えた能力を持つ
この本を読んでから、次の二つのことをするようになりました。①力ラスを見かけたらハシブトガラスかハシボソガラスか見分けようとする。②ヒゲのような鼻毛とオシャレな耳毛を確認できる距離まで近寄る(その前に逃げられてしまいますが)。今頃、私の顔はちょっと危ない人だとカラスの間に広まっているかもしれません。
大学で飼育しているニワトリがカラスに襲われたことがきっかけで、そこか20年、著者はカラスを追求し続けながら、依頼されたカラスに関するトラブルの解決も試みます。そこには黒い厄介者を何とかしてあげたいという著者の愛が感じられます。
解剖学者でもある著者はカラスの全身を徹底して調べます。そして脳の構造や様々な学習実験からカラスの発達レベルがわかってきたのです。
ちょっと前に女性から奪ったlCカードを使ってキップを買おうとした「券売機カラス」が話題になりましたが、この本を読めばそんな遊び心だけではなく、記憶力や情報伝達力など想像を遥かに超えた能力がカラスには備わっていることがよくわかります。
その能力があるからこそ、人問のそばに棲めば不自由しないことを学習してしまったのは、カラスにとってある意味不幸だったのかもしれません。生ゴミ問題など多くの摩擦がありますが、カラスのことをここまで知ったからには、あとは人間が創意工夫をすれば共生できるような気がします。カラスを見て「CROW (苦労)かけてるなあ…」と言える時がくることを著者も願っているはずです。
(評・岩手県立釜石高等学校教諭 高橋 利幸)
(月刊MORGENarchive2018)