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『小さいおうち(文春文庫)』
中島 京子/著
文藝春秋/刊
定価570円
終の棲家を心に描いて生きる
味わい深い作品を読み終えた後はしばらく現実に戻れないものです。中島京子作・第143回直木賞受賞作品『小さいおうち』は山田洋二監督が映画化したことで、今、再び話題になっています。
穏やかな日常を描いて秀逸な文学は感動を描く時に激しい言葉もあらすじの乱高下もなく、それでいて感動が残ります。
もしもいるのなら、タキさんに会ってみたい。もしもあるのなら、丘の上に立っ赤い屋根の家を訪ねてみたい。そう思いながら読み、本を閉じては表紙を眺め、本文に戻ってまた裏表紙を眺めて。
晩年、タキが出版の話から「心覚えの記」として書き上げた回想録で物語は昭和初期、山形の尋常小学校を卒業したタキが上京して家政婦となり、小説家の小中先生宅に奉公するところから始まります。
やがて浅野家に移り、タキはそこで眩しいほど美しい都会の奥様時子と会い時子への憧憬と都会の暮らしに湧き立ち、時子の指導で料理や言葉使いを覚えます。
しばらくして、夫を亡くした時子は息子恭一を連れて再婚。タキは時子について再婚先の平井家に移り、平井家の日常が細やかに描かれます。タキはこの家で与えられた小さな板の間の部屋を「終の棲家」と心に決めるほどでした。
穏やかな暮らしが続くもやがて大戦の影響で人々の暮らしは一変するのです。そんななか、時子はある青年に秘密の恋をします。それを知ったタキはある行動にその秘密は封印され、タキは生涯苦しみます。謎は、甥の健司が意外な人物に会って明らかになるラストで解明し、深い余韻が残ります。
(評・埼玉県立印旛明誠高校司書 山中 規子)
(月刊MORGENarchives2014)
