青い海と空のみちのく八戸から 波動はるかに 第2回 東・南・西・北

 “八戸は東北の熱海“と、妻は自身が生まれ育った北東北の太平洋に面したその地を、確かに“熱海”と言った(よな)。この地は東経141度30分、北緯40度30分の位置にある。日本列島に於ける本州最東端、北に向かっては下北半島を残すだけの北東北の中核都市である。西に緯度線40度をたどってゆくと北京、ナポリ、マドリッド、ニューヨークなどの都市に同じである。熱海といえば、私の生まれた静岡県内の伊豆半島の玄関口ともいえる温泉地、気候は年中温暖で優しい。社会に出てからおよそ60年も過ごした横浜にもごく近い。気候条件はよくしっている。体感している。妻のその言に些かの疑いを抱きながらも、人生の最後の地を青森八戸と決めた。

 ところが案の上、北の国はやはり厳しかった。青森八戸に移住する、この年齢になるまで経験したことのない寒い一冬を、身を竦めてやり過ごすということになってしまった。しかし、この街で出会った人たちは皆、この冬は例年よりずっと暖かいという。地球温暖化の傾向は、北緯40度線上のこの地を、いつの日か、世界の覇を競う北京やニューヨークに並ぶ繁栄をもたらすやもしれないが、少なくとも東北の熱海と言ってもおかしくない温暖な気候のリゾート地になる可能性はかなり高いといえる。

 さて、寒さ対策は着膨れを厭わず、燃料費を無視すればどうにかなるというもの。私にはこれに加えて、困ったことがもうひとつ生まれた。この地域の地理をつかむのに思いがけず苦労しているのだ。道路と道路の関係がつかめない。従っていきたい場所がどっちの方角にあるのか分からない。時刻をチェックし、空を見上げてお日様を確認すれば、東西南北を認識できるはずだが、あいにく太陽を拝める日は少ない。また仮に認識できたとしても、地上の曲がった道を東西南北に当て嵌める作業が全くできない。

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