高田 知己さん(弁護士)

 弁護士・高田知己さんは弁護士過疎地の茨城県土浦市で地域を支える町弁護士だ。ひとつひとつの案件を丁寧に受け止め、適切に解決法を提示するその姿勢は、多くの人々に光明を与える。

 しかしもしかすれば、高田さんが最初に奮い立たせた人生は、あるいは自分自身のものだったかもしれない。若き日、交通事故で下肢の自由を失った。そこから始まった車椅子の轍の軌跡……、人生を切り拓いた核を訪ねた。

 

 高田さんが生まれたのは茨城県東海村。高度経済成長期、日本初の原子力に活気づく村は、東に太平洋を臨む美しい浜辺を有している。まだTVゲームも少ない時代、幼少期の多くを自然のなかで過ごした。

 小学校高学年のとき、天体観測に興味を持った。当時、天体観測は子どもたちの間では大変な人気で、それに釣られた格好である。水戸の中学に上がってもその気持ちはしばらく残ったが、中、高と進み、いよいよ本格的に天体研究の進路を調べると、次第に違和感を憶え始め、やがてそれは霧散する。職業選択の幅の狭さ、そしてなにより、高校から本格化する理系科目を苦手にしたのがその理由だった。

 高校の頃、とにかく身体を動かすのが好きだった。青年はよく遊び、よく働いた。ゴルフのキャディー、ゲームセンターの管理事務……、この頃のアルバイトで得た社会経験は、現在にもつながる貴重なものとなっている。そして運命を変えたあの事故の夜も、そんな日常のなかの何気ない一コマ……、ひとつの夜のはずだった。

続きを読む
1 / 4

関連記事一覧