『せんそうがやってきた日』

二コラ・デイビス/作 レベッカ・コッブ/イラスト 長友恵子/訳

鈴木出版/刊

本体1,500円(税別)

戦争は子どもの未来を奪う

 椅子。この本の表紙をめくると、見返しにそれがたくさん現れる。誰も座っていない、たくさんの椅子たち。それがこの作品にどう関わってくるのか、考えながら、再びページをめくる。

 この絵本の主人公は、ある一人の女の子だ。ささやかな幸せに包まれた日常を過ごし、学校で授業を受け、昼食をみんなで食べる。そしてそのすぐ後に、何の前触れもなく、戦争がやってくる。何もかもを破壊した破壊した戦争から逃れるため、生き残った女の子は、遠く、戦争の無い場所を目指して逃げる。しかし戦争は姿を変えて、どこまでも追いかける――。

 本書では、難民の、特に子どもに焦点を当てている。子どもの自由を象徴するものとして学校が登場しているが、戦争は家族や街を消し、何よりも学校を壊して、子どもの自由を奪ったものと主張される。女の子が逃げた先で、学校の先生は「あなたの場所はありません。/わかりますね。/いすがないのです。/さあ、いきなさい。」と言う。そこで戦争の真の恐ろしさを再確認する。戦争は子どもの未来を奪う。そして同時に、椅子の意味も知るのだ。

 作者と訳者のあとがきの後に、見返しが現れる。そこにはたくさんの椅子がある。椅子にはたくさんの子どもたちが座っていて、みんな優しい笑顔を浮かべている。

 私たちは戦争を知らない。だからこそ、言葉が自然と心に入ってくる。そして私たちに、今何をすべきかを考えさせ、また私たちにできることはたくさんあると、勇気も与えてくれる。たくさんの人に読んでもらいたい一冊である。

(評・本庄東高等学校3年 岡島 雪乃)

(月刊MORGEN archives2020)

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