『なんとなくは生きられない』

野澤和弘/編著 「障害者のリアルの迫る」東大ゼミ/著

ぶどう社/刊

本体1,500円(税別)

障害を越えて学び会う

「障害者のリアルに迫る」という東大ゼミからのメッセージ。学生自ら講演者を探し、障害者の話を聞き、意見交換をしていく授業。講師依頼だけではなく、講演会を学生たちが企画・運営していくゼミだ。依存症や疾病から、障害者となった方たちが自身の経験と障害と共に生きる姿を語った講演内容が掲載され、障害を持った方たちの現状を知り、学生たちの遠慮ない様々な意見が後に続く。 障害者たちの障害を得るに至った様々な経緯を知り、その克服の仕方を聞くに、障害というより、「生きにくさ」との闘いということを感じさせられる。
「依存症は関係性の病」といわれるが、人間関係の溝を埋めるために刺激を求めて薬物やギャンブルに依存していった話も、そこから立ち直っていく過程で、回復支援団体の人々とのかかわりにより、日常を取り戻していく様子が語られる。最終的にはどう自分が考えるかが、ポイントとなっている。

 疾病が原因で障害を得た方の「人生半ばで障害を得ることは喪失」という言葉は、それまでの日常が奪い去られたことを痛切に感じさせる。そんな彼らも「障害は一つの個性」と言って「生きにくさ」に立ち向かっている。

 講師として招かれた障害を持った方たちだけに、彼らの「生きにくさ」に立ち向かう人間力の強さを感じる。そして、彼らに出会い、話を聞き、ゼミに集まった学生たちは自分の生き方を顧みる。魅力ある障害者たちの姿から、自分自身を振り返り、様々な気付きをつづっている。日常では学びにくい生きざまに触れ、人間性を深めていく。

(評・中村中学校・高等学校司書教諭 岡田 富美子)

(月刊MORGEN archives2019)

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