塚田 万理奈さん(映画監督)

 塚田万理奈さんは映画監督である。その作風は、一見、私小説(自分自身を題材にした作品)風だが、少し目を凝らせば映画の中で〝私″は力強く拡張され、リアリズムの普遍的な煌めきを放っている。第10回田辺・弁慶映画祭でグランプリを受賞した『空(カラ)の味』は、実体験をもとに、拒食症の苦しみと、それを取り巻くコミュニティを通して、現代社会や人間そのものに鋭い切り込みを入れる。鬼気迫る感性の刃……、夢を生きる源泉を訊いた。

自身と向き合うとき″私″が″私″を乗り越える

 長野県長野市――、善光寺を傍らに、都会と自然が絶妙におり混ざる地方都市が塚田さんの原風景だ。幼い頃から本や漫画が大好きだった少女は、暇さえあれば絵を描いて、それにストーリーを付け加えては絵本をこしらえた。

 4人兄弟の末っ子として、文武両道の兄、活発な姉、そして自立心旺盛で多才な長女に埋もれるように過ごした幼い日々。上の兄弟たちに手いっぱいの両親の足元で、一人黙々と漫画を頭に押し込めては妄想を膨らませる。

「家族内での存在感が0でした……」そう振り返る無色の記憶だ。

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