『一隅を照らす蠟燭に 障がい者が″ふつうに暮らす″を叶えるために』

田島 良昭/著

中央法規出版/刊

本体1,800円(税別)

悩んで失敗する″愚かな教師″になろう

 長崎の社会福祉法人南高愛隣会の四十年の歩みが、著者の″身を焦がす生き方″に照らされて綴られている。″福祉労働者″ではなく、″福祉の活動家″として、新たな施設や制度や法律を生み出してきた著者の生き方には教育者として自然、引き込まれるものがある。その原点は父親と祖母にあった。父が特高警察から受けた痣から、自分の信念を貫くことの大切さを教わり、育ててくれた祖母からは「世のため人のためになるような立派な侍になれ」との遺言を受け取った。

 印象的で参考になる話もいくつもあった。例えば、「障がいのある人はどうしたら幸せになるのか?」というもの。その答えを知るには、学者や政治家や福祉関係者ではなく、″福祉の専門家″である障がい者本人に聞くことだという。″賢い教師″ではなく、本人の希望に寄り添い、一緒に考えて、悩んで失敗する″愚かな教師″になろうというのだ。

 数多くの難問の中でも著者が最も心を砕いたのが″障がい者がふつうに暮らす″こと。

『獄窓記』の講演会で「刑務所が障がい者だらけになっている」という話に衝撃を受け、司法と福祉が話し合う「合同支援会議」を立ち上げた。福祉がやるべきことに、福祉が追いつけずにいる現状を変えようという試みだ。ここでは既存の福祉の枠組みに囚われない、ヤクザや風俗、刑務所内のトラブルまでを斬新な発想のアイディアや行動で次々と扱った。その中には全国初となる取り組みがいくつもある。

 本は最後に「自戒を込めて」と前置いて、「教員ではなく″教師″になってください」とあった。私は本を閉じて胸に手を当てた。

――生徒たちに深い愛情を持って接することができているだろうか?

「一隅を照らす蝋燭」は″仄か″ではなく、大きな光を放っていた。

(評・埼玉県立小鹿野高等学校教諭 江田 伸男)

(月刊MORGEN archives2019)

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