岡部 三知代さん(学芸員・竹中工務店ギャラリーエークワッド副館長)
「ポストモダニズム(近代主義と過去の様式の融合)全盛の時代でしたね」
先日、久々に再会した所長は、そう言うと、少し照れくさそうに頭をかいた。思えばあの頃、進歩的、漸進なアイディアを臆すことなく、ぶつけ、ぶつかっていた。不恰好でもなんでも、信念を持ち、やってきたから今がある。
女性の少ない職場ではあったが、現場は概ね、和気藹々としていた。女性にも積極的にチャレンジしてもらおうと、様々な仕事にも抜擢され、どこか一つの家族のように感じることもあった。
だが、働き始めて十年が過ぎる頃になると、大きすぎるプロジェクトと家庭の間で、歯車が軋み始める。チーム力が試される建築の仕事は、時に深夜まで就業時間が及ぶ。ひとり目、二人目と子供を生み、育てるにつれて、保育園と就業時間のズレにどんどんと苦しさが増していった。それでもなんとか粘り強く仕事を続けるが、チームの仲間と共有する時間も次第に少なくなり、徐々に追い詰められていった。
2004年、上司の異動に伴い、建築現場を外されることになった。悩む背中に、本社ビル移転とそれに伴うギャラリー開設の情報が飛び込んできた。〈ギャラリー担当者は社内公募〉告知の下の一文は、いつまでも脳裏に残って、消えなかった。