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岡部 三知代さん(学芸員・竹中工務店ギャラリーエークワッド副館長)

学芸員として生きる

「岡部さん、やってみたら」ギャラリー担当者のその何気ない一言を、一にも二にもなく受け取り応募したのは、なぜだったのだろうか。二人の子供はまだ小さく手がかかる。そんなときに、業務内容も分からないその仕事をとにかくやってみようと思ったのは、自分なりに建築表現の場を、現場とは違う新たな地平に見たい、そんな思いもあったのかもしれない。

『竹中工務店』という大きな看板を背負いながらも、またそれとは少し違うテイストを求める自分らしさを見せられるかもしれない、そんな希望的な観測もあった。結果としてこの選択は転機となるのだが、応募者は岡部さんただ一人だった。

 ギャラリーで働くようになると、それまで、〈尖りすぎ〉といった理由で受け入れられなかった提案が、しっかりと汲み取られるのを感じた。それは仕事面だけではなく、ハンディと感じていた家庭の事情にも及んだ。

「トーヴェ・ヤンソン夏の家展」(2013)おうちづくりワークショゥプにて

 とりわけ大きかったのは、長らく、〝自分は社内のマイノリティ″と肩身狭く過ごした会社の中での母親としての目線、家庭人としての目線が、顧客の視点に立つ上では非常に役に立ったことだ。

「やってみなければわからないものですね」

 当時を振り返って、そう微笑んだ。当初は、一人だけの主任学芸員だったが、その有用性が評価されて、今では5人にまで増えたという。

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