林 典子さん(フォトジャーナリスト)

 長期滞在の旅費を解決してくれたのは現地の新聞社だった。小学校でボランティアを続ける傍らで働いてもいいという。新聞社ではいきなり写真を任された。実はこれは、なんの経験もない素人には破格の仕事だ。

「小さな新聞社だからできたこと。アメリカや日本にいたら絶対にできなかった体験ですね」

 振り返ってそう微笑する選択が人生の岐路になった。何も最初からジャーナリストや写真家を目指したわけではない。ただ、新聞社で働き、アフリカの大地に立っていると、少しずつ人生の方向性が定まっていくのを感じた。

 帰国後、大学を卒業すると、早速、写真活動を始めた。しかしなにしろ就職活動をしなかったわけである。当然、簡単には仕事に就けない。そこでアルバイトでお金を貯め、活動費を作っては出かけていく、そんな生活が2年ほど続いた。

人間の尊厳を撮る

 林さんと言えば、『キルギスの誘拐結婚』(キルギスの婚姻風習:アラ・カチュー)に代表される社会派の作品が有名だ。そして、そのルーツはやはりガンビアにある。ガンビアはアフリカでも最小の国だ。日本を含む多くの国で、そのニュースが流れることはまずない。ところが、新聞社で働き、現地の仲間と行動を共にすると、日々、様々な出来事に出会うのだ。他国では決して流れないそんな小さな事件が、この国ではとても大切なことだった。

 ガンビアでは言論や報道の自由は保障されない。そんな環境の中で記者たちの仕事はまさに命がけである。彼らの姿を間近で見るうち、「伝える仕事は本当に大事だ」と思うようになった。

 ときには単身、取材対象者の家に泊まりこみ、数ヶ月を費やすこともある。言葉も通じない相手に女性が一人で危険では――、と思わず言葉を挟むと、

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