『だれも置き去りにしない フィリピンNGOのソーシャル・ビジネス』

トーマス・グレイアム/著 久米 五郎太/日本語版監修・訳

文眞堂/刊

本体1,800円(税別)

しなやかさの象徴は人間

 貧困にあえぐ人、災害に見舞われた人。明日をも知れぬ身を抱える人たちが世界には多くいる、このことはご存知でしょう。その事実をテレビや新聞などを介して再認識させられた際、当事者たちの境遇を憐れむ方も多いはずです。しかし、貧者や被災者は本当に「憐れみを感じさせる人たち」なのでしょうか?

 本書は、ジャーナリストのトーマス・グレイアム氏がフィリピンのNGOを廻り、貧しい人たちと接していく旅の記録です。NGOガワッド・カリンガのスローガンは、題名にもなっている、「だれも置き去りにしない」。ただただ援助や施しを与えるのではなく、「貧しい人たちが持つ天才的な才能」を確信し、それにより自律を促すというガワッド・カリンガのやり方にトーマスは懐疑的になりつつも、フィリピン滞在の延長を決断することになります。

 作中における天才的な才能から見いだせることの一つ、それは「しなやかさの象徴は人間であること」だと私は思います。貧しい人たちの多くは教育を満足に受けられず、また、彼らの生計は今にも崩れてしまいそうです。しかし、その絶望的なイメージとは裏腹に、彼らは互いを気遣い、協力し、そして苦難に日々立ち向かいます。天才的な才能の定義とは、こうした環境に対してとる態度のことなのでしょう。

 苦しさを感じたことのない人はこの世にいないはずです。だからこそ、本書を私は大多数の人に勧めることができます。決して憐れではない彼らの姿から、困難に打ち勝つという人間としての生活方法を学べるかもしれません。

(評・東京成徳大学高等学校2年 新舩 功也)

(月刊MORGEN archives2018)

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