• 十代の地図帳
  • 青春の記憶に生きるヒントを訊くインタビュー記事

安部 龍太郎さん(小説家)

休学中、どんなアクションを

 そのとき出会ったのが『太宰治』『坂口安吾』といった戦後無頼派の作家たちの小説だった。彼らの作品に流れる近代日本に対する違和感の中に、当時、僕自身が感じていた日本への違和感と同質のものを見つけて感銘を受けたんです。同時に文学の持つ魅力や可能性にも魅了され、作家になりたいと強く思うようになった。以来、ずっと作家一筋で目指して。

理系から真逆の選択にご両親の反応は

 それはもうびっくりしていましたね。「お前、機械工学をやっていたんじゃないのか!」って(笑)。でも僕は生来、性格が頑固でね。自分が一度こうと決めたらてこでも動かないタイプだったんですよ。

 つまり、僕の決定に両親からの批判や反対があることはもちろん充分に分かっていましたよ。分かった上で、それでも自分が決めたことなんだから動かしようがない、という理屈なんですね。とはいえ当然、誠意と信念を持って懸命に説得しましたけどね。

作家を目指して上京後は大田区区役所にお勤めに

 作家になると決めはしたものの、やはりそれは甘いものではないだろうと。最低でも十年は小説修行が必要だろうと思っていました。で、次に、それではじゃあその十年間をどう過ごせば作家になれるだろうと考えて。

 最初に思いついたのは、アルバイトと並行して修練を積むことでした。しかしこれは、生まれついての意思の弱さが邪魔をしてうまくいかないだろう……。それで、どうせなら安定した職業について、その上で小説の勉強も同時にしていこうと考えた。それには役所の図書館で働くのが一番だろうと決めて。

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