『バルザック3つの恋の物語』

オノレ・ド・バルザック/著 安達 正勝/訳 木原 敏江/画

国書刊行会/刊

本体2,400円(税別)

『恋』とは……

 フランス文学の巨匠バルザックの作品の中から、『恋』をテーマに選ばれた3編の多様な恋の物語。

「リストメール侯爵夫人は歯が白く、つやつやとした肌、非常に赤い唇をしていた~」。どのような女性かと想像しながら、ページをめくる。あえて色のないモノクロームの美しい侯爵夫人と男性の姿が現れる。そしてある日、侯爵夫人に届けられたラブレターによって引き起こされた恋のハプニングの展開は……。

「ロジーナは一見したところは弱々しく見えるけれども、活力と力強さを内に秘めた女性たちの一人だった」。印象的な描写を憂いのある表情と鮮やかな色で表現されたイラストから、その場の空気感が漂う。大佐に妻(ロジーナ)を奪われた男の恐るべき行動は、想像を超える。

 乗合馬車の屋上席。美しい景色の中で意気投合する二人の青年の姿もまた凛々しく美しい。そして、その青年から恋人『ジュリエット』へ託された最後の使命……。その結末が衝撃的で、読む前に抱いた『恋』のイメージが覆された。

 物語は表現が写実的で美しく、そして力強い。また、イラストは繊細かつ優美であり、読者を当時のフランス貴族の世界へ誘う。

 物語のみならず、冒頭に書かれた当時の背景や訳者後註の解説により、作品が書かれた1930年代の様相を知ることができる。また、描かれたイラストの細部まで注意深く鑑賞することで新たな発見をし、より物語世界に深く入ることができるだろう。いろいろな楽しみ方ができる新しい試みの一冊である。

(評・新潟市立新津第二中学校教諭・新潟大学現代社会文化研究科博士後期課程1年 甲田 小知代)

(月刊MORGEN archives2019)

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