『昭和からの遺言』

倉本 聰/著

双葉社/刊

本体1,000円(税別)

闇を知るからこそ光に感謝する

 生徒はもちろん、職場の先生たちもいつの間にか平成生まれの先生たちが増えている。団塊ジュニアである私などが昭和を語るのもおこがましいが、「昭和は遠くなりにけり」という感は日に日に強くなってきた。おそらく中高生にとっての「昭和」ということばは、子どもの頃やけに古くさく感じていた「明治」「大正」ということばと同じレベルのものになっているのだろう。

 この『昭和からの遺言』は脚本家・演出家の大御所であり、富良野塾主宰としても知られる倉本聰氏のエッセイ集である。実を言うと脚本執筆術やテレビの裏話、自然体験の話だろうと思い込んで気軽に手に取ってしまった。ところが「遺言」の名にふさわしく、一行一行が深い。それほど分厚い本でもない。上下の余白も大きく、詩集のような紙面構成で字数も多くない。それなのに、なかなか読み進められないのだ。昭和という時代をテーマにした「戦争」「家族」「卑怯」……どれもページを一度閉じて自問自答せねばならないものが並んでいる。もちろんこの中に描かれる「昭和」は私が直接見ていた昭和後半ではなく、もっと前の、重くどこか陰のある時代だ。しかし子どもの頃は、人に、街にまだ面影が残っていたように思う。しかし平成になり、その姿はきれいでつるんとしたものにまったく覆い隠されてしまった。

 この本には「遺言」にしてはいけないことばがたくさんある。その中でも一番心に残ったことばを最後に書いておこう。

「闇を知っているから 光に感謝する」

 私たちは、東日本大震災で知った闇ですら忘れかけてはいないだろうか。

(共立女子中学高等学校 国語科 金井 圭太郎)

(月刊MORGEN archives2016)

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