『21世紀の西脇順三郎 今語り継ぐ詩的冒険』

澤 正宏/著

クロスカルチャー出版/刊

本体1,200円(税別)

ノーベル賞6度ノミネートの詩と詩論を21世紀に語り継ぐ

 1月20日この書評のために届けられた1冊の本。奇しくも、その日が西脇順三郎の生誕122年目の日だったことを年譜で知り、その偶然に縁を感じた。

 昨年1月の新聞に、スウェーデン・アカデミーが1964年のノーベル文学賞候補を開示した際に、西脇がそこに入っていたことが報じられた。6度も候補に挙がったというこの人物の、世界に通用する詩と詩論を、21世紀に語り継ぐのが本書の目的である。

 また生誕の地、新潟県小千谷市が文学遺産の継承に乗り出し、小中高生向きに『西脇順三郎物語』を発行したことも後ろ盾となっている。現代詩は難解だとして遠ざけず、向き合うことによって見えてくるものを、著者は、第1部の講演録と第2部の解説でていねいに示していく。

 高校の国語の教科書に次の詩が掲載されていたことを思い出す読者もいるだろう。「(覆された宝石)のやうな朝/何人か戸口に誰かとさゝやく/それは神の生誕の日。」「天気」詩集『Ambarvalia』より。短い詩の中にはめ込まれた言葉たち。その意味を理解するには、出典となった絵や図版を西欧に求めねばならない。しかし、それを知らずとも感じられる輝き。

 旧制中学では「英語屋」のニックネームで呼ばれ、その後3年間のイギリス留学を経て帰国。大学で教鞭をとりながらの詩作と詩論の執筆。萩原朔太郎を師と仰ぎ、ノーベル賞という文脈で、川端康成、大江健三郎との比較も書かれている本書によって、西脇順三郎の存在が浮かび上がる。

 著者は、芥川賞作家の諏訪哲史さんから、西脇の詩との出遭いが、小説家としての道を決定づけたことを聞いたという。西脇順三郎は、21世紀に確実に繋がっているのである。

(評・佐世保市立大野中学校司書教諭 山本 みずほ)

(月刊MORGENarchives2015)

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