『芥川龍之介 家族のことば』

木口 直子/編

春陽堂書店/刊

本体1,800円(税別)

この本を読んで芥川にハマってみませんか

 シャープ、クレバー、スマート…ハイカラなカタカナが似合う人。芥川龍之介は大学生の時に夏目漱石に認められ文壇にデビューすると、たちまち人気作家となり、古今東西の元ネタをアレンジするどころか凌駕した傑作を次々と発表します。ところが、三十五歳。「ぼんやりとした不安」という言葉を遺して去っていくのです。それ以来、その言葉は日本文学のテーマの一つとなり、今でもその正体を追及しているような気がします。

 この本はそんな芥川の一生を生い立ちから死後まで九つに分け、その期ごとに写真&年譜→著作や書簡から→編者によるアウトライン→本人や芥川家の人々の言葉で振り返っています。

 読んでいくと、人間の意識化にある痛点を研ぎ澄まされた言葉でついてくる文章とは真逆の芥川の姿が見えてきます。家族だけではなく、友人や作家仲間などあらゆる人に心を砕きながら、喜びや苦悩をストレートに表現する等身大の芥川とそんな芥川を大切にしている人たちがいます。本書は、膨大な資料を的確にフィルターにかけた編者の芥川に対する愛の賜物です。

 ドキリとするのは、ベタなラブレターを受け取った妻・文の「創作の一部」という言葉。そうです。短編小説の天才は、短編映画の主人公となって人生までも演じきったのかもしれません。

 読み終えた時、『蜘蛛の糸』の最後の場面、蓮の白い花が頭に浮かびました。これ以上色あせることのないセピア色の写真と文字の効果でしょうか。

 これを読んで芥川にハマってみませんか。

(評・岩手県立水沢高等学校 教諭 高橋 利幸)

(月刊MORGEN archives2019)

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