【対談】不登校を考える――子どもたちの生命と未来
命の育て方はどこに
大越:塾を始めた当初から「親の反省会」というのをやっているんです。これはわが子の不登校をまず親自身の接し方から省みようという試みです。ただこういうことをすると、「客に説教するのか」「子どもの味方をするのか」って凄い反発があるんですよ。でももし、社会や学校の学力偏重に追いたてられた子どもたちを、家庭でも同じように親たちが追いつめてしまっていたとしたら……。どうしてもそこは見逃せないんです。
中村:不登校の子どもたちに必要なのは「時間をかけて自分の育ち返しをすること」なんですよね。逆に生きる力さえ湧いてくればなんでもやりますよ。本当に必要となったら、それこそ受験勉強だって出来る。問題なのはその土台のところ。きちんと生きる力を育めなかった子どももいるわけだから、そこはやはりその子の成長力が充実してくるまで待つ、というのをやらないとダメですよね。
大越:ヨーロッパにはロゴ・セラピー(患者自身が生の意味を見出すことを促す心理療法)というものがありますが、私は塾を始めた当初から、「良い教師というのは良い刺激剤」と考え、子どもたちに問いかけによって刺激を与えようと試みてきました。自問自答する能力を育てれば、自然と勉強にも向きますからね。
中村:70年代に宮城教育大学の学長だった林竹二さん(教育哲学者:故人)が、やはり子どもに問いかける授業というのをやっていましたね。〈ソクラテスの魂の世話〉というコンセプトで、「人間とはなにか」などを子どもに問いかけるんです。はじめ子どもは立ち往生しますが、とにかくなにか答えるまで待つ……。するとやがて子どもは自ら答えを出すんですよ。
この授業は子どもたちに変化を与え、主体的に生きるエネルギーをもたらしましたといいます。現在、学校現場では行われていませんが、「問いかけ」は大切な頭の土台づくりですよね。
大越:今、日本は少子化が騒がれています。貴重な子どもたちを簡単に切り捨てないで、しっかり受け止めて育てる。そうしないと様々な分野の後継者もいなくなってしまうでしょう。そんなことも危惧しながら、日々、目の前の子どもたちと向き合っています。
(月刊MORGEN archives2016)