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蓮見孝之さん(TBSテレビ アナウンサー)

 当時、担当した『NEWS23』は、TBSの名物報道番組だ。だが、夜の報道は激戦区である。他局との差別化や、いかに付加価値をつけるかは常に抱える難問だ。限られた時間の中で、伝えたいことが伝えきれないこともしばしばだった。

 難しいことを難しくやりすぎないようにするのも注意が必要だった。そのため、打合せではなるべく角が立たないようにその点を指摘することもある。とはいえ、やはりバランスは大事である。安易に走らず、難しくなりすぎず、視聴者に出来るだけ多くの付加価値を提供する番組作りを目指して作り上げていく。

「ネット上に、膨大な記事、情報が氾濫する時代、ただ、型通りのニュースを流すだけの番組を作っても、多くの反響は得られない。だからこそ、そこはつきつめないと」

 そういって眼差しを強くした。NEWS23に来たきっかけは東日本大震災だったという。3・11のあの日、当時、情報バラエティを主戦場とした蓮見さんは、CSチャンネルにいた。突如、スタジオは大きな揺れに襲われて番組は中断。急遽、臨時ニュースを伝えることになった。

 臨時スタジオからの補足ニュースは2、3日続いたが、程なくして、以前から予定されたイギリスの海外ロケーションに発つことになった。宿泊先のホテルにチェックインすると、ソファに荷物を投げ、何の気なしにテレビのチャンネルをひねった。すると画面には、イギリスのニュース番組、宮城、福島の映像が映し出された。その途端、蓮見さんの胸に強い想いが迫った。(海外のジャーナリストが日本に行っているのに、私はこんなところで何をしているのか……)。(もし、今度現地に赴く役割を指名されたら、どんな仕事でも引き受けたい)心に決めると、その数ヵ月後、NEWS23の報道リポーターの打診を受理した。

 報道番組を始めてからは、直に人に関わる仕事をしている充実感があるという蓮見さん。中継先でも自分で原稿を書き、使いたい映像を申請するなど、単なるアナウンサーの枠を越え、報道マンとして高みを目指す。08年に結婚後は3児の良き父としても活躍するその視線はどこまでも温かかった。

はすみ のりゆき 法政大学経済学部卒業。TBSテレビアナウンサー。

(月刊MORGEN archives2015)

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